
派遣労働者への待遇の説明義務|雇入れ時・派遣時・求めに応じた説明書面【2026年版】
派遣労働者への待遇の説明義務とは、派遣元事業主が雇入れ時・派遣時・派遣労働者から求めがあったときの3つのタイミングで、決められた待遇事項を書面等で説明し記録する義務のことです(労働者派遣法第31条の2)。専任の人事部門を持たない中小の派遣会社では、就業条件明示書を渡すことと待遇を説明することが同じものだと思い込み、説明の記録が残っていないまま定期指導で指摘されるケースが少なくありません。
本記事では、いつ・何を・どの書面で説明し、どう記録に残すのかを、条文に沿って派遣元の実務目線で整理します。待遇の決め方(労使協定方式か派遣先均等・均衡方式か)そのものは深入りせず、説明のタイミングと記載事項、記録の残し方に絞って解説します。
結論:派遣の待遇説明義務は「3つのタイミング×決まった事項」を書面で説明・記録する
待遇の説明義務は、派遣元事業主だけが負う義務です(派遣先には課されません)。雇入れ時・派遣時・求めがあったときの3タイミングで、昇給・退職手当・賞与の有無や協定対象か否かといった決まった事項を、文書の交付等の方法で明示・説明し、その記録を残します。まず全体像を早見表で押さえましょう。
| タイミング | 根拠(派遣法) | 主に説明・明示する事項 | 主な方法 |
|---|---|---|---|
| 雇入れ時(雇い入れようとするとき) | 第31条の2第2項 | 昇給・退職手当・賞与の有無、協定対象か否か(協定対象なら協定の有効期間の終期を含む)、苦情の処理に関する事項、待遇確保の措置内容 | 文書の交付等+説明 |
| 派遣時(労働者派遣をしようとするとき) | 第31条の2第3項 | 雇入れ時と同じ事項(協定方式では協定の有効期間の終期を含む) | 文書の交付等+説明 |
| 求めがあったとき | 第31条の2第4項 | 比較対象労働者との待遇差の内容・理由、待遇決定で考慮した事項 | 書面の活用等 |
なお、派遣労働者が説明を求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています(第31条の2第5項)。

いつ・何を説明するのか — 3つのタイミング別に整理(派遣法31条の2)
待遇の説明義務は、単一の場面ではなく雇用の段階ごとに発生します。それぞれ根拠となる項が分かれており、明示する項目と説明する内容が少しずつ異なります。ここでは3つのタイミングを順に整理します。

雇入れ時の説明(雇い入れようとするとき)
派遣労働者として雇い入れようとするときは、昇給の有無・退職手当の有無・賞与の有無・協定対象派遣労働者であるか否かの別(協定対象の場合は協定の有効期間の終期を含む)・苦情の処理に関する事項などを、文書の交付等の方法で明示します(第31条の2第2項)。あわせて、不合理な待遇差をなくすために講ずる措置の内容を説明します。
ここでのポイントは、労働基準法上の労働条件の明示とは別に、派遣法固有の待遇項目を明示する必要があるという点です。雇用契約書を渡しただけでは足りず、待遇に関する事項を明示した書面を用意する必要があります。
派遣時の説明(労働者派遣をしようとするとき)
実際に派遣を開始しようとするときにも、雇入れ時と同様に待遇に関する事項を明示し、講ずる措置の内容を説明します(第31条の2第3項)。基本項目は雇入れ時と共通で、労使協定方式を採用している場合は、雇入れ時と同様に協定対象派遣労働者である旨や労使協定の有効期間の終期を明示します。
派遣先が変わるたびに待遇の前提が変わり得るため、派遣ごとに最新の内容で明示し直すことが実務上の抜け漏れ防止につながります。
求めがあったときの説明(待遇差の内容・理由)
派遣労働者から求めがあったときは、比較対象労働者との間の待遇の相違の内容とその理由、および待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明します(第31条の2第4項)。派遣先均等・均衡方式か労使協定方式かによって説明する中身は変わります。
そして、説明を求めたこと自体を理由に解雇や不利益な取扱いをすることはできません(第31条の2第5項)。求めに応じた説明も、いつ・誰に・何を説明したかを記録として残しておくことが求められます。
待遇の説明書面に何を書くか — 記載事項と方式による違い
説明書面の中身は、法定の待遇項目と、採用している待遇決定方式によって決まります。まず明示・説明すべき項目を一覧で押さえ、次に方式による説明内容の違いを整理します。
説明書面・明示書面の主な記載事項(昇給・退職手当・賞与・協定対象区分ほか)
雇入れ時・派遣時に明示・説明する主な項目は次のとおりです。項目そのものは条文で定まっており、様式は都道府県労働局の記入例(参考例)が公表されています。
| 記載項目 | 内容の例 | 主な出力先の書面 |
|---|---|---|
| 昇給の有無 | 有/無 | 雇入れ時・派遣時の説明書面 |
| 退職手当の有無 | 有/無 | 雇入れ時・派遣時の説明書面 |
| 賞与の有無 | 有/無 | 雇入れ時・派遣時の説明書面 |
| 協定対象派遣労働者の別 | 協定対象/対象外 | 説明書面・派遣元管理台帳 |
| 苦情の処理に関する事項 | 申出先・処理の方法 | 説明書面・就業条件明示書 |
| 待遇確保のための措置 | 方式の別と講ずる措置の内容 | 説明書面 |
| 労使協定の有効期間の終期(協定方式) | 年月 | 雇入れ時・派遣時の説明書面・台帳 |
出典: 労働者派遣法第31条の2第2項・第3項を基に自社整理。項目の出力先は派遣HUBの説明書面テンプレートの設計に基づく。

労使協定方式と派遣先均等・均衡方式で説明内容はどう変わるか
待遇の説明は、派遣先均等・均衡方式(第30条の3)と労使協定方式(第30条の4)のどちらを採用しているかで、求めに応じて説明する内容が変わります。方式そのものの選び方は派遣の同一労働同一賃金(労使協定方式)対応ガイド【2026年版】で詳しく解説しているため、本記事では説明内容の違いに絞ります。
| 観点 | 派遣先均等・均衡方式(第30条の3) | 労使協定方式(第30条の4) |
|---|---|---|
| 待遇の決め方 | 派遣先の通常の労働者との均等・均衡 | 労使協定で定めた賃金等 |
| 求めに応じて説明する内容 | 比較対象労働者との待遇差の内容・理由、考慮した事項 | 一般賃金水準以上であること、公正な評価に基づく決定であること等 |
| 主に必要となる派遣先の情報 | 比較対象労働者の待遇情報 | 教育訓練・福利厚生施設に関する情報 |

中小派遣会社が説明義務でつまずくポイントと記録の残し方
説明義務は、義務そのものより「やったことをどう残すか」でつまずきがちです。中小の派遣会社で起きやすい不備類型と、保存年限の考え方を整理します。
よくある不備(明示と説明の混同・記録なし)と保存年限の考え方
最も多いのが、就業条件の明示(第34条=就業場所・業務・派遣期間・抵触日などの働く条件)と、待遇に関する説明(第31条の2=賃金体系や講ずる措置の内容)の混同です。就業条件明示書を渡したことで説明も済んだと考え、待遇の説明書面や記録が残らないまま定期指導を迎えてしまうケースがあります。
| つまずきの類型 | 具体例 | 対策 |
|---|---|---|
| 明示と説明の混同 | 就業条件明示書だけ渡し、待遇の説明を失念 | 2つを別工程として様式化する |
| 記録が残っていない | 口頭説明のみで説明日・内容の記録なし | 説明書面の控えと実施日を保存する |
| 協定対象区分の未記載 | 協定対象か否かの記載漏れ | 説明書面・台帳で必須項目にする |
| 保存年限の管理漏れ | 派遣終了後の保存年限を管理せず廃棄 | 台帳3年・重要書類は原則5年で管理する |
出典: 厚生労働省『労働者派遣事業関係業務取扱要領』の指摘事項と派遣HUBの様式設計を基に自社整理。
保存年限は、派遣元管理台帳が労働者派遣の終了の日から3年間(第37条)、労働関係に関する重要な書類は労働基準法第109条で原則5年間(当分の間は経過措置で3年間)が目安です。台帳の記載や書類の保管ルールは派遣元管理台帳の書き方と保管ルール(18項目)もあわせて確認すると整理しやすくなります。
待遇説明と記録をシステムで仕組み化する(派遣HUBの例)
説明義務を安定して守る鍵は、様式の標準化と記録の一元化です。手作業で書面ごとに転記していると、同じ項目を何度も入力し直すことになり、記載漏れや不整合が起こりやすくなります。
派遣HUBでの待遇説明書面・記録の一元管理
雇入れ時説明書面・派遣時説明書面・派遣元管理台帳・雇用契約書の4つの書面には、同じ待遇項目が横断して現れます。次の表は、4帳票で重複しやすい項目を整理したものです。
| 重複しやすい項目 | 横断する書面 |
|---|---|
| 氏名・雇用区分(無期/有期) | 4帳票すべて |
| 協定対象派遣労働者の別 | 説明書面・派遣元管理台帳 |
| 昇給・退職手当・賞与の有無 | 雇入れ時・派遣時の説明書面 |
| 苦情の処理に関する事項 | 説明書面・就業条件明示書 |
出典: 派遣HUBの帳票項目定義を基に自社整理(自社設計値)。
派遣HUBの帳票設計では、これらの基礎項目をスタッフ情報として一度登録すると、5〜8項目が複数の書面へ自動で反映されます(自社設計値・レンジ)。説明を行った日付と内容も記録として残せるため、明示と説明の混同や記録漏れを構造的に防げます。社会保険や有給休暇など待遇に関わる管理は派遣スタッフの社会保険・有給休暇管理を自動化もあわせて仕組み化できます。

よくある質問(FAQ)
派遣労働者への待遇の説明はいつ行う必要がありますか
雇入れ時・派遣時・派遣労働者から求めがあったときの3つのタイミングで必要です(労働者派遣法第31条の2第2項〜第4項)。雇入れ時と派遣時は決まった待遇項目を明示・説明し、求めがあったときは待遇差の内容・理由を説明します。
雇入れ時と派遣時で説明・明示する内容は違いますか
基本となる項目(昇給・退職手当・賞与の有無、協定対象か否か、協定方式なら協定の有効期間の終期)は雇入れ時・派遣時で共通です。派遣時は、実際に派遣する派遣先に即して改めて明示・説明する点が実務上の違いになります(第31条の2第3項)。
待遇の説明は口頭でもよいですか、それとも書面が必要ですか
雇入れ時・派遣時の明示は、文書の交付等の方法で行うのが原則です。求めに応じた説明も書面の活用等が求められ、口頭のみで済ませると記録が残らず不備になりがちです。説明した日付・内容を記録として残す運用が実務的です。
派遣労働者から待遇差の説明を求められたら何を伝えればよいですか
比較対象労働者との間の待遇の相違の内容とその理由、および待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明します(第31条の2第4項)。労使協定方式では、一般賃金水準以上であることや公正な評価に基づく決定であること等を説明します。
説明を求めたことを理由に不利益な取扱いをしてもよいですか
できません。派遣労働者が説明を求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています(第31条の2第5項)。
労使協定方式でも待遇の説明義務はありますか
あります。方式にかかわらず説明義務は生じます。労使協定方式では、協定対象である旨や、賃金が一般賃金水準以上であること等を説明します(第30条の4)。
説明した記録はどのように何年間保存すればよいですか
派遣元管理台帳は労働者派遣の終了の日から3年間の保存が義務づけられています(第37条)。労働関係に関する重要な書類は労働基準法第109条で原則5年間(当分の間は経過措置で3年間)が目安のため、説明書面の控えもこれらに準じて保存すると安全です。
まとめ:説明義務は「様式の標準化」と「記録の一元化」で守る
派遣労働者への待遇の説明義務は、雇入れ時・派遣時・求めがあったときの3つのタイミングで、昇給・退職手当・賞与の有無や協定対象区分といった決まった事項を明示・説明する義務です(労働者派遣法第31条の2)。就業条件の明示(第34条)とは別物であり、説明を求めたことを理由とする不利益取扱いも禁止されています。
つまずきの多くは、明示と説明の混同や記録の欠落から生じます。説明書面の様式を標準化し、台帳や雇用契約書と項目を連動させて記録を一元化することで、定期指導にも耐えられる体制になります。
出典: 労働者派遣法第31条の2・第30条の3・第30条の4・第34条・第37条、労働基準法第109条、e-Gov法令検索、厚生労働省『労働者派遣事業関係業務取扱要領』および厚生労働省の待遇の説明義務に関する公表資料。最新の様式・手続の詳細は厚生労働省の公表資料でご確認ください。
待遇の説明も、記録も、ひとつのシステムで
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