
派遣の苦情処理体制の作り方|申出先の設定・派遣元/派遣先の連携・記録義務【2026年版】
派遣の苦情処理体制は、苦情の申出先を明確に決め、派遣元と派遣先が連携して処理し、その経過と結果を管理台帳に記録・保存する——この3要素をそろえて労働者派遣契約に落とし込むことで整います。苦情が起きるかどうかではなく、受けたときに誰がどう動き、どこに記録するかを先に決めておくことが体制の中身です。
派遣スタッフからの苦情は、就業先である派遣先と、雇用主である派遣元のどちらにも寄せられます。申出先や連携のルールが曖昧なままだと、対応が遅れたり、記録が残らず後から労働局の調査で説明できなかったりします。苦情を申し出たスタッフを不利益に扱えば、それ自体が指針違反にもなります。
本記事では、派遣の苦情処理体制の作り方を派遣元の実務目線で解説します。派遣法40条・26条・派遣元指針が求める法的義務、苦情申出先の設定と連携5ステップ、派遣元管理台帳への記録義務と記録テンプレート、脱Excelでの証跡化までを、記録項目つきで整理します。
【結論】派遣の苦情処理体制に必要な3要素(早見表)
派遣の苦情処理体制は、次の3要素で構成されます。いずれも労働者派遣法と派遣元指針に根拠があり、労働者派遣契約や管理台帳への落とし込みまでがワンセットです。まず全体像を早見表で示します。

| 要素 | 内容 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 1. 苦情申出先の設定 | 派遣元・派遣先双方の申出先(部署・役職・氏名・連絡先)を派遣契約と就業条件明示書に明記 | 派遣法26条・34条・派遣元指針 |
| 2. 連携・処理フロー | 受付→通知→連携・協議→処理→結果通知を遅滞なく行う | 派遣法40条1項・派遣元指針 |
| 3. 記録と不利益取扱いの禁止 | 苦情の申出年月日・内容・処理状況を管理台帳に都度記載し3年保存。苦情を理由とする不利益取扱いは禁止 | 派遣法37条・42条・派遣元指針 |
体制づくりは「苦情ゼロ」を目指すことではなく、苦情を受けたときに動ける導線と、動いた証跡を残す仕組みを整えることです。以降で3要素を、法的義務・連携フロー・記録の順に掘り下げます。
苦情処理体制の3つの法的義務(派遣法40条・派遣元指針・派遣契約26条)
苦情処理には、派遣先・派遣元それぞれの義務と、両者をつなぐ労働者派遣契約上の義務があります。3つの法的根拠を分けて押さえます。
派遣先の連携・処理義務(派遣法第40条第1項)
派遣先は、派遣労働者から派遣就業に関する苦情の申出を受けたときは、その内容を派遣元事業主に通知するとともに、派遣元事業主との密接な連携のもとに、誠意をもって遅滞なく、その苦情の適切かつ迅速な処理を図らなければなりません(労働者派遣法第40条第1項)。
つまり派遣先だけで完結させるのではなく、苦情の内容を派遣元へ通知し、連携して処理することが法律で求められています。指揮命令の現場で起きた苦情でも、雇用主である派遣元が把握できる導線をつくることが前提です。
派遣元の苦情処理義務(派遣元指針)
派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第137号)は、派遣元に対し、派遣労働者の苦情の申出を受ける者・苦情の処理を行う方法・派遣先との連携のための体制を、労働者派遣契約で定めることを求めています。
さらに同指針は、苦情の申出を受けた年月日・苦情の内容・苦情の処理状況を、苦情の申出を受け、処理に当たった都度、派遣元管理台帳に記載することとしています。雇用主として、派遣元は自ら苦情を処理する体制と記録を持たなければなりません。
労働者派遣契約への苦情処理事項の明記(派遣法第26条)
苦情の処理に関する事項は、労働者派遣契約の記載事項として法定されています(労働者派遣法第26条第1項第7号)。契約書に苦情処理の取り決めを書かなければ、契約自体が要件を満たしません。
契約に定めるのは、派遣元・派遣先双方の苦情の申出を受ける者、苦情の処理方法、両者の連携体制です。この内容は派遣スタッフへ交付する就業条件明示書(派遣法第34条)にも明示します。3つの義務の関係を次の表に整理します。

| 義務の主体 | 根拠 | 求められる内容 |
|---|---|---|
| 派遣先 | 派遣法40条1項 | 苦情の派遣元への通知・連携・迅速な処理 |
| 派遣元 | 派遣元指針 | 申出先・処理方法・連携体制の整備と台帳記録 |
| 労働者派遣契約 | 派遣法26条1項7号 | 苦情の処理に関する事項の記載(両者共通) |
苦情申出先の設定と派遣元・派遣先の連携フロー
法的義務を実務に落とすと、最初にやることは苦情申出先を決めることです。次に受付から解決までの連携フローと、不利益取扱いの禁止を押さえます。
苦情申出先に定める4項目(部署・役職・氏名・連絡先)
苦情申出先は、派遣スタッフが「どこに言えばよいか」で迷わないよう、派遣元・派遣先の双方について具体的に定めます。労働者派遣契約と就業条件明示書には、次の4項目を明記するのが実務の基本です。

| 定める項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 部署 | 苦情を受け付ける部署・課 |
| 役職 | 担当者の役職(派遣元責任者・派遣先責任者等) |
| 氏名 | 申出先となる担当者の氏名 |
| 連絡先 | 電話番号・メールアドレス等 |
派遣元側の申出先は派遣元責任者が担うことが多く、派遣先側の申出先は派遣先責任者が担うのが一般的です。指揮命令者と申出先を同一人物が兼ねる場合もありますが、スタッフが安心して申し出られる窓口かどうかを基準に決めます。派遣元責任者の選任と職務は派遣元責任者・派遣先責任者の選任と記録義務で解説しています。
苦情受付から解決までの連携5ステップ
苦情を受けてから解決するまでの流れは、受付・通知・連携・処理・記録の5ステップで整理できます。派遣先で受けた苦情も派遣元へ通知され、両者が連携して処理する点が派遣特有です。

- 受付:派遣元または派遣先の申出先が苦情を受け付ける
- 通知:派遣先が受けた場合は、内容を派遣元へ通知する(派遣法40条1項)
- 連携・協議:原因が双方に関わる場合は、密接に連携して対応方針を協議する
- 処理:誠意をもって遅滞なく苦情を処理し、スタッフへ結果を伝える
- 記録:申出年月日・内容・処理状況を管理台帳へ記録する
派遣先だけで解決できる苦情もありますが、雇用条件や待遇に関わる苦情は派遣元の関与が欠かせません。処理の主体があいまいにならないよう、ステップごとに責任者を決めておきます。
苦情を理由とする不利益取扱いの禁止
派遣元事業主は、派遣労働者が苦情を申し出たことを理由として、その派遣労働者に対し不利益な取扱いをしてはなりません(派遣元指針)。契約の中途解除や、別の派遣先への一方的な交代を「苦情を言ったから」という理由で行うことは認められません。
苦情対応の記録には、処理の結果とあわせて、苦情を理由とする不利益取扱いがなかったことの確認まで残しておくと、後日の説明責任を果たしやすくなります。苦情の内容と処理の是非を切り分けて対応することが、体制として求められます。
苦情の記録義務:派遣元管理台帳・派遣先管理台帳への記載
苦情処理は「対応した」だけでは足りず、記録として残すことが義務づけられています。派遣元・派遣先の両方の管理台帳が記録先になります。
派遣元管理台帳に記録する苦情の処理に関する事項(派遣法37条)
派遣元は、派遣元管理台帳に苦情の処理に関する事項を記載しなければなりません(労働者派遣法第37条・同法施行規則第31条)。派遣元指針は、記載すべき内容を、苦情の申出を受けた年月日・苦情の内容・苦情の処理状況とし、苦情を受け、処理に当たった都度記載することを求めています。
派遣先側でも、派遣先管理台帳に苦情の処理に関する事項を記載します(労働者派遣法第42条)。両台帳の保存期間は、いずれも労働者派遣の終了の日から起算して3年です。派遣元管理台帳の記載事項全体は派遣元管理台帳の書き方と保管ルール(18項目)で解説しています。
苦情処理記録テンプレート10項目(独自データ)
法定の記録項目(申出年月日・内容・処理状況)を実務で漏れなく残すには、受付から結果までを追える記録フォーマットが役立ちます。次の表は、派遣HUB(派遣元向けの業務管理SaaS)の苦情処理記録機能の設計仕様と、派遣法40条・派遣元指針の要求事項を対応づけて自社整理した記録テンプレート10項目です。

| # | 記録項目 | 対応する要求 |
|---|---|---|
| 1 | 受付日 | 苦情の申出を受けた年月日(指針) |
| 2 | 申出者 | 対象の派遣スタッフ |
| 3 | 申出を受けた者(申出先) | 派遣契約の記載事項(26条) |
| 4 | 苦情の内容 | 苦情の内容(指針) |
| 5 | 派遣先への通知日 | 派遣先から派遣元への通知(40条1項) |
| 6 | 連携・協議内容 | 密接な連携(40条1項) |
| 7 | 処理経過 | 苦情の処理状況(指針) |
| 8 | 処理結果 | 苦情の処理状況(指針) |
| 9 | 対応責任者 | 派遣元責任者・派遣先責任者 |
| 10 | 不利益取扱いなしの確認 | 不利益取扱いの禁止(指針) |
出所:労働者派遣法第40条・第26条・第37条および派遣元指針の要求事項を、派遣HUBの苦情処理記録機能の設計仕様にマッピングした自社見解です。法定の記録は3点(申出年月日・内容・処理状況)ですが、連携先・通知日・不利益取扱いの確認まで残すと、労働局の調査でも一連の対応を証跡として示せます。
苦情処理体制をシステムで整備する(脱Excel)
苦情処理の記録は、Excelや紙で個別に管理すると、台帳への転記が抜けやすい領域です。仕組みで一元化すると証跡が途切れません。
Excel・紙運用で起きる記録の欠落と転記漏れ
苦情はメール・電話・口頭などさまざまな経路で入るため、Excelや紙の運用では受付メモは残っても、派遣元管理台帳の苦情欄への転記が後回しになりがちです。転記が漏れると、対応はしたのに記録上は「苦情なし」となり、労働局の調査で説明できません。
派遣HUBは、苦情の受付記録を派遣元管理台帳の苦情の処理に関する事項へ同じデータで反映し、二重入力と転記漏れを防ぎます。受付から処理結果までを1件ずつ追跡でき、対応履歴がそのまま3年保存の証跡になります。
派遣HUBでは、苦情を受け付けた時点で受付日・申出先・内容を記録し、処理状況の更新が派遣元管理台帳の記載にそのまま連動します。担当者は転記のために台帳を開き直す必要がなく、記録の欠落を防げます。
台帳全体の脱Excelの進め方は、中小派遣会社が派遣管理を脱Excel化する完全ガイドで解説しています。
よくある質問
派遣スタッフから苦情があったとき、派遣元と派遣先のどちらが対応しますか?
派遣元・派遣先の双方に対応義務があります。派遣先は苦情の内容を派遣元へ通知し、密接な連携のもとに処理する義務を負います(労働者派遣法第40条第1項)。派遣元も雇用主として苦情を処理する体制と記録が必要です(派遣元指針)。派遣先だけの原因なら派遣先で解決できますが、雇用条件に関わる苦情は派遣元との連携が欠かせません。
苦情申出先には何を定めればよいですか?
派遣元・派遣先それぞれの申出先について、部署・役職・氏名・連絡先を定めるのが実務の基本です。これらは労働者派遣契約の苦情の処理に関する事項(派遣法第26条)として定め、派遣スタッフへ交付する就業条件明示書(派遣法第34条)にも明示します。誰に言えばよいかがスタッフに伝わる状態にすることが目的です。
苦情の処理内容はどの帳簿に記録しますか?
派遣元は派遣元管理台帳(労働者派遣法第37条)、派遣先は派遣先管理台帳(第42条)に、それぞれ苦情の処理に関する事項を記載します。派遣元指針は、苦情の申出を受けた年月日・苦情の内容・処理状況を、苦情を受け、処理に当たった都度、派遣元管理台帳へ記載することを求めています。
苦情を申し出た派遣スタッフを別の派遣先に交代させてよいですか?
苦情を申し出たことを理由とする交代は認められません。派遣元指針は、苦情の申出を理由として派遣労働者に不利益な取扱いをすることを禁じています。苦情の内容の妥当性と、スタッフへの取扱いは切り分け、苦情を理由とした契約解除や一方的な交代は行わないようにします。
苦情処理体制は労働者派遣契約(派遣法26条)に記載が必要ですか?
必要です。苦情の処理に関する事項は労働者派遣契約の記載事項として法定されています(労働者派遣法第26条第1項第7号)。具体的には、派遣元・派遣先双方の苦情の申出を受ける者、苦情の処理方法、両者の連携体制を契約で定めます。記載を欠くと契約が要件を満たしません。
派遣元管理台帳の苦情記録は何年保管する必要がありますか?
派遣元管理台帳は、労働者派遣の終了の日から起算して3年間保存します(労働者派遣法第37条・同法施行規則)。苦情の処理に関する記録も台帳の一部として同じ期間保存します。派遣先管理台帳(第42条)の保存期間も同じく派遣終了の日から3年です。
まとめ:苦情処理体制は「申出先・連携・記録」で守る
派遣の苦情処理体制は、苦情申出先の設定、派遣元・派遣先の連携フロー、記録と不利益取扱いの禁止という3要素で成り立ちます。派遣先は苦情を派遣元へ通知して連携処理し(派遣法40条1項)、派遣元は自ら処理する体制を整え、苦情の申出年月日・内容・処理状況を派遣元管理台帳へ都度記録します(派遣元指針)。
これらは労働者派遣契約の記載事項(派遣法26条)として明文化し、就業条件明示書にも明示します。苦情はゼロにはできない前提で、受けたときに動ける導線と、動いた証跡を3年分残す仕組みを整えることが、体制づくりの実務です。
出典:労働者派遣法第40条第1項・第26条第1項・第37条・第42条、労働者派遣法施行規則第31条、派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第137号)、派遣先が講ずべき措置に関する指針、厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」。
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