副業・兼業スタッフの労働時間通算|派遣元の管理実務(労基法38条・管理モデル・割増賃金)【2026年版】
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副業・兼業スタッフの労働時間通算|派遣元の管理実務(労基法38条・管理モデル・割増賃金)【2026年版】

2026年8月5日23分で読める

副業・兼業で掛け持ちする派遣スタッフの労働時間は、労働基準法38条により他社分と通算して管理する義務が派遣元にもあり、他社の労働時間は本人の自己申告で把握し、割増賃金は契約締結の先後と所定外労働の発生順(または管理モデル)で負担者を判定します。

登録型派遣では他社派遣やアルバイトとの掛け持ちが構造的に多く、通算義務の放置は割増賃金の未払いに直結します。しかも他社の労働時間は自社の勤怠データに映らないため、申告ルールの設計が実務の分かれ目です。

本記事では、派遣元の経営者・労務担当の方向けに、通算ルール・割増賃金の負担判定・自己申告ルールの設計・管理モデルの使い方を早見表と判定例で整理します。

結論: 副業・兼業スタッフの労働時間通算は派遣元の義務|対応早見表

労働時間の通算とは、労働基準法第38条第1項「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」に基づき、複数の会社に雇用されて働く人の労働時間を合算し、法定労働時間(労基法第32条・原則1日8時間/週40時間)の超過を判定する仕組みです。厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月最終改定)は、事業主を異にする場合も通算に含まれると整理しており、派遣元も自社スタッフの他社労働時間を通算して労基法を守る義務を負います。

論点派遣元の実務での結論
通算の要否雇用×雇用の掛け持ちは通算が必要。業務委託・フリーランス分は対象外
割増賃金の負担者所定は契約締結の先後順・所定外は発生順に通算し、法定超過のうち自ら労働させた時間に各社が支払う
他社時間の把握方法スタッフ本人からの申告等による。登録時+月次の申告ルールを設計する
管理モデルの使いどころ開始前に各社の労働時間上限を設定すれば、毎月の他社実労働時間の把握が不要になる簡便法
派遣元が行う副業・兼業スタッフの労働時間通算の全体像を示した図解
派遣元が行う副業・兼業スタッフの労働時間通算の全体像を示した図解

労基法38条の通算原則と派遣で頻出する掛け持ちパターン

通算されるもの・されないもの(雇用×雇用が対象、業務委託・フリーランスは対象外)

通算の対象は、複数の事業場で労基法の労働時間規制が適用される労働者として働く場合、つまり雇用契約同士の掛け持ちです。一方、フリーランス・独立・起業・顧問など労基法が適用されない働き方や、管理監督者など労働時間規制が適用されない場合は通算されません(同ガイドライン)。

したがって登録時は、「他社で働いているか」に加えて「その働き方は雇用か業務委託か」まで確認します。形態の確認を飛ばすと、必要な通算の漏れや不要な管理につながります。

他社派遣との掛け持ち・派遣×アルバイトの2大パターン

登録型派遣で頻出するのは「他社派遣会社との掛け持ち」と「派遣×直接雇用アルバイト」の2パターンで、いずれも雇用×雇用のため通算対象です。当事者になるのは雇用主である派遣元です。派遣では現場の時間管理を派遣先が担う場面がありますが、それは同一の派遣就業内での縦の責任分担であり、詳細は派遣の労働時間・36協定の管理|派遣元と派遣先の責任分担【2026年版】に委ねます。本記事のテーマは複数の雇用主にまたがる横の通算です。

掛け持ちの源泉徴収(甲欄・乙欄)など税務側は派遣元が行う派遣スタッフの年末調整|対象者・扶養控除申告書・掛け持ち・退職者【2026年版】を参照してください。

他社派遣との掛け持ちと派遣×アルバイトの2大パターンにおける通算関係の図解
他社派遣との掛け持ちと派遣×アルバイトの2大パターンにおける通算関係の図解

割増賃金はどちらの使用者が負担するか(判定ルールと改正動向)

原則的な通算方法: 契約締結の先後と所定外労働の発生順

原則的な方法では2段階で通算します。まず所定労働時間を労働契約締結の先後順に通算し、次に副業開始後の所定外労働時間を実際に行われた順に通算します(同ガイドライン)。

通算して自社の法定労働時間を超える部分が時間外労働となり、各使用者は「そのうち自ら労働させた時間」を自社36協定の延長時間の範囲内に収め、割増賃金(2割5分以上。月60時間超の部分は5割以上)を支払います。

判定例で確認する: 派遣元が割増賃金を支払うケース・支払わないケース

ケース通算の結果割増賃金の負担
自社が後から契約(A社所定5時間+自社所定5時間)所定の通算だけで10時間となり法定8時間を2時間超過後から契約した自社の超過2時間分を自社が負担
自社が先に契約(当日は他社が先に残業→自社でも残業)所定外は発生順に通算し、自社残業の時点で法定超過超過後に自ら労働させた自社残業分を自社が負担
自社で所定外労働なし所定外の通算は不要自社の追加負担は生じない

後から契約した会社は所定の通算段階から超過を抱えやすく、先に契約した会社でも発生順で負担が生じます。通算結果は毎月の給与計算に直結します(給与側の実務は派遣会社の給与計算を自動化する方法|社保・所得税控除の手作業を減らす【2026年版】を参照)。

契約締結の先後と所定外労働の発生順による割増賃金負担の判定フロー図
契約締結の先後と所定外労働の発生順による割増賃金負担の判定フロー図

割増賃金通算の見直し動向(2026年7月執筆時点)

労働政策審議会では、健康確保のための通算は維持しつつ割増賃金の算定は通算不要とする方向の見直しが審議されてきましたが、労使の意見に隔たりがあり、2026年通常国会への改正案提出は見送られました。2026年7月の執筆時点で現行ルールに変更はなく、当面は原則どおりの管理が必要です。

他社労働時間の自己申告ルール設計(登録時ヒアリング+月次申告)

登録時に押さえる申告項目と就業条件明示への反映

他社の労働時間は本人からの申告等により把握して通算するのが基本です(同ガイドライン)。起点は登録時・契約時のヒアリングで、他社就業の有無、雇用か業務委託かの形態、他社の契約締結日(先後判定に必要)、所定労働日・時間を定型項目として押さえます。

あわせて、申告義務と申告方法を就業規則や登録時の書面に定めます。副業・兼業に係る相談や自己申告を理由とする不利益な取扱いはできないため(同ガイドライン)、申告を萎縮させない設計が前提です。

月次申告の書式・頻度と通算チェックの流れ

運用フェーズでは他社の実労働時間を月次で申告してもらい、自社の勤怠実績と突き合わせて法定超過と36協定の枠を確認します。通算管理に必要な最小データ項目は次のとおりです(派遣HUBの帳票項目定義・データモデルに基づく自社整理)。

タイミング押さえる最小データ項目用途
登録時他社就業の有無/就業形態(雇用・業務委託)通算対象かどうかの判定
契約時他社の契約締結日/所定労働日/所定労働時間契約先後の判定と所定労働時間の通算
月次他社の実労働時間(申告値)/自社の勤怠実績/通算残業の累計割増賃金の負担判定と上限チェック

計8項目のうち月次で動くのは3項目で、書式を固定すればスタッフの負担は限定的です。申告の受け皿は派遣スタッフ向けマイページ・ポータルのメリットと選び方【2026年版】で紹介する窓口への集約が回収漏れを防ぎ、突合の土台には派遣の勤怠管理を効率化する方法|タイムシート・打刻・派遣先承認【2026年版】で扱う自社勤怠の整備が欠かせません。

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登録時・契約時・月次の3段階で行う自己申告と通算チェックの流れ図
登録時・契約時・月次の3段階で行う自己申告と通算チェックの流れ図

厚労省「管理モデル」を派遣元が使う場合の手順

管理モデルの仕組み: 上限枠の事前設定で毎月の突合を不要にする

管理モデルは、毎月の申告・突合の負荷を軽くするために同ガイドラインが示す簡便な労働時間管理の方法です。副業開始前に、先に契約した使用者Aの法定外労働時間と、後から契約した使用者Bの労働時間(所定+所定外)の合計が単月100時間未満・複数月平均80時間以内に収まる範囲で、各社の労働時間の上限をあらかじめ設定します。

割増賃金は、使用者Aが自社の法定外労働時間分を、使用者Bが自社の労働時間全体分を支払う整理です。設定した上限内で労働させる限り、他社の実労働時間を毎月把握しなくても労基法を守れる点が最大の利点で、導入は使用者Aがスタッフに求め、本人を通じて使用者Bが応じる形が一般的です。

自社36協定の上限からの逆算手順

自社が使用者Aなら、自社36協定の延長時間の範囲内で自社の法定外労働の枠を先に決め、単月100時間未満・複数月平均80時間以内との差分が他社に許容できる枠になります。自社が使用者Bなら、自社の労働時間全体に割増賃金を支払う前提で人件費を織り込んで上限を設定します。36協定の枠自体の管理は前掲の労働時間・36協定の記事に委ねます。

管理モデルにおける使用者Aと使用者Bの上限設定と割増賃金負担の構造図
管理モデルにおける使用者Aと使用者Bの上限設定と割増賃金負担の構造図

副業・兼業スタッフの労働時間通算に関するよくある質問

派遣スタッフが他社でアルバイトをしている場合、労働時間の通算は派遣元の義務ですか?

はい。雇用契約同士の掛け持ちは労働基準法第38条第1項の通算対象で、「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含まれます(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」)。派遣元も申告等で他社の労働時間を把握し、通算して管理する義務を負います。

副業している派遣スタッフの割増賃金は、どちらの会社が支払うのですか?

所定労働時間を契約締結の先後順に、所定外労働時間を発生順に通算し、自社の法定労働時間を超える部分のうち「自ら労働させた時間」について各使用者が支払います(同ガイドライン)。一般には、後から契約した会社が所定の通算段階の超過分を負担しやすい構造です。

スタッフが他社の労働時間を申告してくれない場合、派遣元はどう対応すればよいですか?

通算は本人からの申告等により把握した労働時間で行うのが基本のため、まず就業規則や登録時書面で申告義務・方法・頻度を定めます。申告や相談を理由とする不利益取扱いはできないので(同ガイドライン)、申告しやすい月次書式や受付窓口を整えて運用で回収する設計が現実的です。

管理モデルを使えば、他社の労働時間を毎月把握しなくてもよいのですか?

はい。開始前に各社の上限を単月100時間未満・複数月平均80時間以内の範囲で設定し、その枠内で労働させる限り、他社の実労働時間を把握しなくても労基法を遵守できます(同ガイドライン)。ただし使用者Bの立場では、自社の労働時間全体に割増賃金を支払う前提です。

業務委託(フリーランス)での副業も労働時間の通算対象になりますか?

なりません。フリーランス・独立・起業・顧問など労基法が適用されない働き方は通算の対象外です(同ガイドライン)。ただし過労防止の観点から、申告等で就業時間を把握して長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています。

割増賃金の通算ルールは今後の法改正で変わる予定がありますか?

労働政策審議会で、健康確保のための通算は維持しつつ割増賃金の算定に係る通算は不要とする方向の見直しが審議されています。ただし2026年通常国会への提出は見送られており、2026年7月の執筆時点で現行ルールに変更はありません。

まとめ: 通算管理は「申告ルール×勤怠一元管理」で仕組み化する

副業・兼業スタッフの労働時間通算は、労基法38条に基づく派遣元の義務です。雇用×雇用の掛け持ちが対象で、所定労働時間は契約締結の先後順、所定外労働は発生順に通算し、法定超過のうち自ら労働させた時間に割増賃金を支払います。突合の負荷が重ければ、上限枠を事前設定する管理モデルも選べます。

実務の土台は、登録時・契約時・月次の3段階で申告項目を固定し、自社の勤怠実績といつでも突き合わせられる状態を保つことです。改正審議の行方にかかわらず健康確保のための通算は残る見通しで、早めに仕組み化する価値があります。

出典: 労働基準法第32条・第36条・第38条、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定)・同「わかりやすい解説」(2025年3月)、労働政策審議会の労働基準関係法制審議(2026年7月時点の報道)、e-Gov法令検索。


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